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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2072号 判決

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 石塚尚

被控訴人 乙山春夫

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、金五〇万円およびこれに対する昭和五一年一一月一三日以降同五二年一二月一〇日まで年一割五分の割合、同年同月一一日以降右完済まで年三割の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、第二審を通じ、これを三分し、その一を控訴人、その余は被控訴人の負担とする。

事実

一  求める判決

(一)  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

(二)  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  主張

(一)  被控訴人

「請求原因」

1  被控訴人は、控訴人に対し、昭和五一年一一月一二日、金一五〇万円を、返済期限昭和五二年一二月一〇日、利息日歩八銭、遅延損害金年三割六分の約定で貸渡した。

2  よって被控訴人は、控訴人に対し、右貸金一五〇万円およびこれに対する昭和五一年一一月一三日以降返済期限である同五二年一二月一〇日まで利息制限法による制限利率の範囲内の年一割五分の割合による利息金並びに返済期限の翌日である昭和五二年一二月一一日以降右完済まで同範囲内の年三割の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  控訴人

「請求原因に対する認否」

その1は否認する。

「抗弁」

1  被控訴人は、昭和四九年一〇月頃から同五三年三月頃までの間、訴外甲野花子(以下、花子と略称)が控訴人の妻であることを知りながら情交関係を結んだ。

2  右不法行為により、控訴人は、多大の精神的苦痛を蒙ったが、その慰謝料の額は五〇〇万円が相当である。

3  控訴人は、本訴(昭和五五年一一月一八日の当審第一回口頭弁論期日)において、右慰謝料と本件貸金とを対当額で相殺する旨の意思表示をなした。

(三)  被控訴人

「抗弁に対する認否」

その1は認めるが、その2は争う。

「自白の撤回」

抗弁1につきなした自白は、真実に反し、錯誤によるものであるから、撤回する。抗弁1のうち情交関係は否認する。

(四)  控訴人

「自白の撤回に対する意見」

右自白の撤回には異議がある。

三  証拠《省略》

理由

《証拠省略》によると、

被控訴人は、昭和四九年頃、控訴人と知合い、金銭の貸借(被控訴人が貸主)をしていたが、昭和五一年一一月九日頃控訴人から、金が要るから一五〇万円貸してくれ、と借金の申込みを受けたため、同年同月一二日、知人の司法書士から「金銭消費貸借抵当権設定契約証書」と題する契約書用約を貰い(これに同司法書士が貸主「乙山春夫」、借主「甲野太郎」、弁済期「昭和五二年一二月一日」、利息「日歩八銭」、遅延損害金「三割六分」と記載した。)、これを持参して控訴人方に赴き、同人宅で控訴人は、右契約書を読んだのち、自らがボールペンで、右契約書の金額欄に一五〇万円、日付欄に昭和五一年一一月一二日と記載し、末尾の借主欄に自らの住所を記載のうえ署名押印をなし、被控訴人は、持参していた一五〇万円(うち八〇万円は手持資金、七〇万円は工事金を前借したものであった。なお当時、被控訴人は土建業を営んでいた。)を控訴人に交付して、これを貸渡したこと、

すなわち請求原因1が認められ、当日、酒を飲んでおり、被控訴人に脅かされ同人のいうままに契約書に署名押印しただけであって、金銭は借りていない、との原審および当審における控訴人本人尋問の結果、および右認定に反する当審における証人甲野花子の証言は前記証拠に照らすと信用できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

二 被控訴人は、抗弁1についての自白の撤回をなすが、被控訴人は花子と情交関係を結んだことはなく、右自白は真実に反する、との当審における被控訴人本人尋問の結果は、当審における証人甲野花子の証言、控訴人本人尋問の結果に照らすと措信できず、ほかに右自白が真実に反することを認めるに足りる証拠はない。

そうすると右自白の撤回は無効であり、抗弁1は当事者間に争いがないことになる。

三 《証拠省略》によると、

花子は、昭和四九年一〇月頃、被控訴人に誘われて、これと情交関係を結ぶようになり、同五一年一〇月頃に控訴人に発覚したが、同五三年三月頃まで右関係を継続した、

昭和三七年に結婚した控訴人と花子との間には、三人の子があり、また現在では花子も右不貞行為を反省しているので、両名の婚姻は継続しているが、もともと飲酒癖のあった控訴人(控訴人は調理士である。)は、花子の不貞で、ますます酒にふけるようになり、夫婦間は必ずしも円満でない

ことが認められ、右事実よりすると、控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料の額は一〇〇万円が相当である。

四 抗弁3の事実は当裁判所に顕著である。

五 以上によると、被控訴人の本訴請求は、貸金一五〇万円から相殺がなされた一〇〇万円を控除した残金五〇万円およびこれに対する昭和五一年一一月一三日以降返済期限である同五二年一二月一〇日まで年一割五分の割合による利息金並びに返済期限の翌日である昭和五二年一二月一一日以降右完済まで年三割の割合による遅延損害金の支払を求める範囲において理由があり、その余は失当ということになる。

よってこれと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条前段、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 手代木進 上杉晴一郎)

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